
6月14日(日)、NHK Eテレのテレビ番組「サイエンスZERO」に“超改造の達人”として出演した、自治医科大学教授 西村智(にしむら・さとし)さん。顕微鏡から自転車まで、さまざまな機械を改造して独自のものをつくり出す、その“超人技”に驚いた方も多いのでは?
ここでは西村さんがどんな人物なのか、そして西村さんが手がける新しい自転車「パラサイクル」について紹介します。
エンジニア・医師・大学教授。さまざまな顔をもつ“超人”西村智さん

西村智さんは東京大学大学院医学博士課程 修了後、東京大学循環器内科特任助教などを経て、2013年より自治医科大学分子病態治療研究センター 分子病態研究部 教授を務める、すごい経歴の持ち主。
もともと大学時代から趣味で自動車を改造するなど、ものづくりが大好きで、さまざまな機械を改造して独自のものをつくり出してきました。
世界で初めて8K顕微鏡をつくった人として、2018年に「NHKスペシャル」にも出演。顕微鏡で映し出される、広い範囲かつ鮮明な体内映像に驚いたという人も多いと思います。夢は「スマートフォンで撮影するような手軽さで体の中を見ること」と語る“変わり者”としても有名です(笑)
非常に手先が器用で、日々さまざまなものの開発に取り組んでいる西村さん。実は若い頃の病気がきっかけで車椅子ユーザーに。そのとき「医療に助けられた」という自身の経験もあり、現在は医師としての知見を生かしながら、さまざまな医療機器や障害を持っている人向けの車椅子、電動自動車などの開発に積極的に取り組んでいます。
西村智さんが手がける笑顔になる乗りもの「パラサイクル」とは?

そんな西村さんが開発した「パラサイクル」は、片側に麻痺があっても乗ることができる自転車です。見た目は普通の自転車ですが、ペダルをこぐときの脚への負荷量やタイミングを左右で変えることができる優れもの。例えば、左側に麻痺がある人であれば、右の負荷を9割、左の負荷を1割にするなど、使う人の筋力に合わせて調節することができます。
体のアンバランスを支える自転車
実は、病気による麻痺や筋力低下、事故後の障害など、ほとんどの機能障害は非対称に起きます。片側だけの麻痺が多くみられる脳梗塞などが代表的な例です。
これまでそのような障害をもった人々は、体半分が動ける場合でも、移動する際は車椅子に乗ることが一般的。結果、体全体の筋力が衰えてしまったり、行動に制約が出てしまったりすることがありました。
しかし、このパラサイクルがあれば自分で買いものに行ける、会いたい人に会いに行ける、見たい景色を見に行ける、走りながら体で風をうけ、季節の香りを感じることができる。障害を持っていたとしても、乗り続けることで筋力が上がり、働き方の選択肢も増える。まさにハンディキャップを抱える人の暮らしを応援する自転車なのです。
左脚に障害を抱える西村さん自身も、パラサイクルで行動範囲が広がった
自身も左脚に障害があり、車椅子ユーザーという西村さんも日常的にパラサイクルに乗っているそうです。もちろん、パラサイクルに乗るには繰り返し練習しなければ乗りこなせません。子どもの頃、自転車に乗れるようになるまで、何度も練習した記憶はありませんか? それと全く同じです。
西村さんも毎日練習したことによって、両脚でこいでいるように見えるほど、今ではすっかり乗りこなせるようになったとのこと。移動の選択肢が増え、出かける楽しみも増えたと実感しているそうです。
ものづくりを通して“笑顔”を届けたい

西村さんは今年4月に、株式会社ティ・ディ・シー 代表取締役の赤羽優子(あかばね・ゆうこ)さんとともに、自治医科大学発のベンチャー企業として株式会社IchiGoo(いちぐー)を創業しました。疾病や怪我などのライフイベントによる困難さや不自由に対して、医学と技術、新たなアイデアや創意工夫を用いて、これまでにない機械や器具を提案することをビジョンに掲げています。
パラサイクルは、そんなIchiGooの取り組みの第1弾。まだ試作段階とのことですが、今後はスポンサー企業などを募り、障害を抱える人たちの負担ができるだけ少ない形で販売をしていくそうです。
障害をもつ人だけでなく、歳を重ねれば誰にでも起こりうる体の不自由や疾病。そのような人たちが少しでも笑顔になれるような機器を、暮らしの便利ツールとしてもっと気軽に提案していきたいと語る西村さん。彼のものづくりによって、医療がもっと身近なものになる日もそう遠くはないのかもしれません。
【パラサイクルに関するお問い合わせ】
株式会社IchiGoo
https://ichigoo.net/